実家のお墓参りへ

 毎年8月15日は人生で一番幸せを感じていた日だ。
 過疎化が進む田舎で、その日だけは帰省した人達で賑わっていた。

 ちっちゃいちっちゃい夏祭りがあって。
 大型トラックに大漁旗を飾って舞台にして、カラオケ大会。
 青年部の人たちが子ども達のために、輪投げや金魚すくいを用意していて。

 家からあまり出てこない町の人もお祭りには出てきて、楽しそうだった。
 里帰りした子ども達のための夏祭り。その日だけは、浜辺が賑やか。


 帰省中は子どもと蟹とりしたり、魚釣りしたり、海辺を散歩したり。

 もっと子どもが大きくなったら、父の船に乗せてあげたかった。砂浜にもつれてあげたかったし、海で存分に泳がせてあげたかったなぁ。

 カブトムシだってとりにいけたよ。

 もっと大きくなったら、ってずっと思ってた。
 それは今だ。
 今してあげたかった。

 
 叶わなかったな。
 
 町は変わり、家もなくなった。
 なにより、帰っても、迎えてくれる人がいない。
 海で泳ぐことすらできなくなった。

 そんなことを思いながらお墓参りにいく。
 木々の隙間から見える海。そんな場所にあるお墓。どこにも負けないように、お掃除する。

 お寺はとても手入れが行き届いている。

 ゴミは持ち帰ってください。山主

と看板があるけれど、山主とは和尚様のこと。時間があると、お墓のある山林の手入れをしている。
蓮の花もサルスベリもムクゲも本当にキレイに咲いている。
 だからお墓なのにおどろおどろしい感じは全くしない。逆にパワースポットのようにすがすがしい。

 和尚様は、震災の時、毎日毎日あちらこちらでお経を読んでいた。
 こちらが気の毒になるほどだった。隣町では和尚様も震災で亡くなられ、大変だったそうだ。

 和尚様のお経は子どもの頃からずっと聞いていることもあり、聞いていてとても気持ちがいい。
 心を込めてお経をあげてくださっているのがわかる。
 お経の前後には解説をしてくださる。
 
 祖母はお寺で御詠歌をあげていた。お盆は大忙しだったなぁ。

 そうそう、夏祭りが始まる前、灯籠流しがあったんだけど、灯籠流しの間御詠歌を歌いあげるのよ。
 幻想的だった。


 お墓参りを終え、
 仮設のあるお店へ。

 頼んだのはミニウニ丼。
 旦那様はくじら定食。

 これぞ故郷の味!

 これで1400円!
 また、寄らせてもらおう、と思いました。

 故郷で当たり前のように食べていたものが、めったに口にすることができなくなった不思議。

 時は流れる。

占室 円

せんしつ つぶら